第六八一回 それは、ある日突然。


 ――週末でもある今日。四月二日のこと。



 救急車で運ばれたそうなの、太郎たろう君のお母さん。……千夏ちかさんが。


 とにかく僕は走った。梨花りかも一緒に。太郎君が、僕に電話をくれたから。いつもと違う太郎君の声。いつもの自信に満ち溢れていた声は、そこにはなくて、泣き声にも……



 病院は何処? 何処の病院?


 救急車で運ばれたというから、緊急配備の整っている済生会。そこを目指すの。僕は言うの、スマホ越しに――「気を確かに持つんだよ、今向かってるから」と、叫ぶ。


 叫ぶも声の大きさではなく、心からの叫び。


 場所は一駅から、更にバズ……という道程だけれど、僕らも急いていたせいか、自転車も使わず走っていた。マスクも息苦しく外し、息切れするも遠い道程……梨花は、もう限界の様子。ジョギング歴は僕の方が長いから、つい僕に合わせてしまって、


「梨花、大丈夫? ごめんね、僕が急いたから……」


「大丈夫だよ、少しペースを落としてくれれば……歩いてたら、大丈夫だから。千佳ちかの彼氏が大変な時に、情けないね、もっと早くジョギング始めたら良かったのに……」


「梨花らしくないよ。僕一人じゃ心細いから、梨花を頼ったんだから。僕は梨花がいてくれたら、どんだけ心強いか。きっと、太郎君だって、僕と同じ気持ちだから……」


 ギュッと、手を握る梨花。


「行こっ、千佳」


「うん、お姉ちゃん」


 そこからは歩いた。カントリーロードの道程は、果てしなく続くと思われそうだけれども、心は負けないようにと歩む。気持ちは前向きになるようにと、勇気をもって。


 そして着く。――済生会病院。


 広い敷地内、歩き続けて病院内、その一階に太郎君がいた……



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