第六八〇回 お空が、とても低い。


 ――それは白い朝。気温は真冬に似たり。



 ガチガチ震える程、まるで天空にでもいるような感覚。僕は歩くこの道を……学園へ向かう道、登校経路を。白い雲のように霧が深く、ぼんやりとする見慣れたはずの風景。


 すると遠くから声が……


 いや、案外近くから……


千佳ちか、待って」という声。聞き覚えのある声、お馴染みの……


梨花りか……」だった。


「先に行くなんてずるいよ」と、言われるも「心外だなあ、梨花が中々起きないから、この心優しき妹が、お姉ちゃんの分も一緒に、高等部で使う教材を入手しようとしてあげようとしてるんじゃない」と、ドンと胸を張って言った。僕らは姉妹。一卵性双生児で、僕が妹で、梨花が姉なの。一人称は『僕』だけれど、列記とした女の子だ。


 しかもこの春から高等部。……高校生だ。


 高等部で使う教材は、学園に赴いて入手する定めとなっている。春休みの間に行われるイベントでもある。少し大人になった実感を味わう儀式ともいえる晴れ舞台だから……


 色づき始める風景……


 まるで霧が晴れるようにと。冷たかった気温も、梨花と繋ぐ手……


 ホッとするほど温かくて、「行こっ、千佳」と、梨花の声掛け逞しく思えて、「うん」と返事する僕は、やっぱり梨花の妹……梨花と一緒に歩む。姉と同じ道を行く。


 学園内はもう、桜が満開。


 造幣局はもう少し先だけれど、一足先の桜舞うその風景。薄紅色の風景の中。


 気温は低くとも、やはり春を感じる。新たなる顔ぶれも、そこに集っている。知る人も知らない人も。交差し並行し……「あっ、梨花に千佳」と声を掛けられた颯爽と、知った顔ぶれ。「せつ可奈かなも一緒に」だったの。最近は一緒に行動することが多くなった二人。


 何やら尽きないお喋り。会話を控えめで……という張り紙も、楽しき時には敵わずで。



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