第六七九回 目覚めたら、君の嘘。


 ――四月の初日だから。スーッと目の当たりには君がいた。



 目覚めたら……


 だから、ここは何処? 辺りを見渡すも身に覚えのない処。


 怪しい色の灯りに照らされている。薔薇色は臨むところの色だけれど、ちょっぴり怖くて、……君の表情がいつもと違うから、もっと優しく包んで欲しいから。


 よく見極めると、


 君は誰? 僕の知らない君がいるから、そっと尋ねる。そして聞こえる雨音……天気予報では雨は降らない晴れのはずなのに、叩きつけるほどに強い雨音……おかしな世界観。


 自らを雨女と思った途端、


 雨音は消えた。怪しい色の灯りも凌駕するほどの快晴に満たされる日差し。白く揺れるカーテンから。……すると、君の表情は、いつものように。僕の知っている太郎たろう君……


「ここは何処?」

 と、僕は訊いてみる。少しばかりの勇気と、大いなる好奇心から。


「決まってるじゃないか。二人きりの空間といえば『愛のあるホテル』……最近は俺のこと構ってくれないから、千佳ちかが何処まで本気で俺のことを思ってるのか確かめるためだ」


 すると瞬く間に雷鳴。


 轟く雷鳴……「そんなことしなくても、僕は本気だよ。好きじゃなかったら、僕のすべてなんて見せたりしないから。太郎君は、確かめなきゃ僕のこと信じられないの?」


 涙が出ちゃった。感情の高ぶりからか。

「……嘘だよ」


「……ひどい」


「ここが『愛あるホテル』ということも。今日はエイプリールフールだから、許せよ。千佳があまりにも可愛いから、好きさ余って意地悪したくなんたんだよ。じゃあ……」

 接吻、口づけ、キス……この本質は、嘘ではなく確かな真実だった。真実もありきだ。



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