第六七八回 雨音は、エイプリールを迎え入れる準備だったから。


 ――朝まで待てなかった雨。天気予報よりも早々と降っている午前五時。



 日記を始める前から日課となっているジョギング。……元々は、コロナ禍になったことがキッカケで、運動不足を解消するため始めたこと。……筋トレも兼ねて。


 そこから見る見る変わる、僕の健康状態……


 梨花りかが言うの。「顔色が良くなったね」……


 それだけではなくて、女の子としても、体型も。丸みも帯びて。そして言う、またも梨花が。――「僕も始めてみようかな、ジョギング」と、言ったの。


 それから初日のこと。それが今日。


 本当なら四月一日からと、梨花は言っていたのだけど、全面否定。その日はエイプリルフールだからと、煽りに煽ると、梨花は「明日から……」と、小声で低い声で言った。



 そして今日は、三十一日。三月の末。


 折り返し地点。ジョギングコースもそうだけど、高等部へと刻一刻と近づく春休みもそうなの。卒業式からだから、長い春休みとなるの。ちょうどそこへ、雨が。


 天気予報とも、予想とも異なる激しい雨……


 瞬く間にずぶ濡れ。雨宿りできる場所を探すも、そのまま駆け抜ける。肌寒くなる冷たい雨だったから。冬の再来? ううん、違うよ。春の香りがしているから。


 駆けるペースは、息ピッタリ。


 腕の振り、脚の動きに至るまで。そして横並び。今日初めてのはずだけれど、僕のペース通りに梨花は走る。そのまま帰宅。滝の如く降る雨は、滝行の如く頭から、濡れる。


 すぐさまシャワールーム。二人一緒……


 見るも何か? 僕と同じくらいに、丸みを帯びている梨花。毎日続くジョギングに挑戦している僕と同等。洗いっこをして初めて、そのことに気付く。いつの間にか、大人への第一歩を築いていることに。僕らの裸体が、平等に大人になっていることに……



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