第六七四回 夜明けのシスターズ。


 ――それは、夜を駆けた証。誰が知らずとも、その証は密室に残っていた。



 そして響く、梨花りかの声……


「ちょっと千佳ちか、何勝手に決めてるの?」と、ノックもなしに。というよりかは乗り込んできたというか、乱入という言葉の方がお似合い。あまりビックリしてない僕……


「それって『アニバーサリー・チャンピオンシップ』のことだね。今年もやるよ。なんだかんだ言いながらも梨花はきっと、僕と一緒にやってくれると思うから、ここに宣誓」


 フッと溜息を吐く梨花、それでも、


「まあ、どうしてもって言うのなら、妹想いのお姉様としては、協力してあげなくはないけどね」と、ニンマリと笑みも浮かべて言う。……まあ、そうなると思っていたけど。


「おねー様、ありがと」と、ギュッと手を握る僕。可愛い妹を演じつつ。


「ホント調子いいんだから」と、言いながらも梨花は笑顔。握り返す手。


 ここで思う……


 思ったの。僕のターニングポイントは幾度か語らせて頂いたけれども、梨花のターニングポイントは……僕もまだ知らなかった。もうすでに、梨花は僕の前にいたから。僕が執筆する前に、梨花はもう執筆していたの。それに梨花が執筆を始めた時には、そのタイトルも決まっていたようだし、もう心も決まっていた後なのだから……あまり語られる場面がなかったと思われる。僕の記憶が確かなら、そう思われるの。


 梨花は当時、Mさんに憧れてエッセイの執筆を始めた。そのMさんとは、瑞希みずき先生のことで、僕も拝読させて頂いたことがある。しかしながら、僕を執筆に導いたのは、やはり梨花のエッセイ。僕は幾度も何度も毎回と励まされてきた。沢山の元気を頂いた。


 揺れるカーテンの向こうには、もう朝が訪れている。


 早朝ともいえるシチュエーションとなる。今はまさに夜明け。ふと思う、日本の夜明けもこんな感じなのかと……瞬く間にお空は明るくなる。それはきっと、梨花のターニングポイントがそのようなイメージだったと、そう思わせるような、ある種の予感を。



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