第六七二回 春先の物語は三月へ。


 ――共々に、十五歳の春を迎えようとしている君と僕。この間、同じ年齢となった。



 激闘と激動の二月を越えて、新たなる試みの三月を迎えようとしている。まさしく弥生と呼ばれる月。……進学の前に、とある学校行事が待ち構えている。ある種のけじめ。


 ではなくて、門出を祝す儀式。


 仰げば尊しには、まだ遠いのかもしれないけれど……でも、わが師の恩は胸の内に。そして今は、溢れる思い出たちに、僕は涙しそうな気がするの。ここは、僕にとっては、尊きターニングポイント……あ、ちょっぴり泣けてきちゃった、すでに。


 その行事とは、

 卒業式……太郎たろう君たちはもちろん、中学校だから。僕らは中高一貫の学園だけれど、中等部の卒業式はあるの。思えば当然のこと。僕らみたいに高等部へ進学する子ばかりいるわけではないから。高校受験をして別の学校へ進学する子もいる。其々の道があるのだから、クラスの中でもお別れする子もいるの。進学する子も多いけれど、全体の三割の子は別の学校を受験していた。僕らの学園は、元はといえば情報処理を専門とした学園。


 その専門校へ行く子もまた多いのだ。


 技術を究めようとする試みで。今の時代は、AI技術を学ぶ子も多くなってきている。


 そう思うと、万博を記念した旧号きゅうごうは、まさに画期的なロボットといえる。見た目は本当に、人と何ら変わりなし。永遠の十五歳、旧一もとかずおじちゃんと何ら変わりはないのだ。


 僕しか見えない……今はもう見えなかった。見えたも過去形となった旧一おじちゃんそのものなの。万博に行ったのなら、いつでも会える。そこで旧号は、他のロボットたちと仲良く過ごしている。旧号が、そのロボットたちをウイルスから守っている。旧号のプログラムには、ウイルスを除去する作用が備わっているから。未来ある研究員たちは、旧号から学ぶの。ロボット工学に於ける技術を。そして心意気。下町ならではの心意気。


 純粋にロボットが大好きな心……


 それはまた、梨花りかにも大きな影響を与えていたようなの。



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