第六五二回 それは、窓辺での十三時。


 ――正午は回る。混雑を少しでも避けようと考えたから。



 僕らは駅で待ち合わせ。最寄りの駅……改札口で。あの日の約束は今日、成人式の前日にあたるこの日……って、僕らはまだ、まだまだ未成年で、迎えるまでに五年もある。


 僕らは心で固く決める。


 ちゃんとした大人になろうと。……文章上では稚拙極まれりな表現だけれども、成人式は列記とした社会の行事。責任ある大人になるための儀式。なので遊び半分なら、僕は決して許さないことだろう。常識ある大人の行動は、ここから始まるから。



 私鉄沿線を走る電車の中で、

 思考を重ねることが次から次へと、脳内に舞い込んでくる。


 少し未来のことを、僕は思考できるようになっていた。このエッセイを始める前は、未来のことを思考するなんて思いもつかなかった。今この時を迎えること、


 想像もできなかった。傍には太郎たろう君がいる……


 ぎゅっと、僕の手を握るの。「あっ……」と、太郎君お顔を見ながら、声が漏れる。


「もうすぐ『梅田』だぞ、ウメチカ」


「うん、潜るもんね、ウメチカ。そこから御堂筋に突入するから」


「ゴールも近いようだな、千佳ちか


 そして、クスッと笑う、僕は。不思議そうな顔をして僕を見る太郎君。質問するための言葉も失っているかのように、言葉は出ないままで……「それ、洒落?」と、僕は見越して言う。太郎君は「実は狙ってた」と、そう答えた。


 そんな中で終点の梅田。梅田とウメチカは表裏一体。地上と地下の関係で御堂筋に向かうには、地下に潜る必要がある。千佳が地下に潜る……太郎君と一緒に。そこから始まる御堂筋の儚い旅路。何故ならば、五分ほどで目的地に着くからだ。再び地上に出たのならば、そこにあるの。来る夢、来る人を待っているラーメン屋。明るいお空のその中で。



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