第六四七回 一富士二鷹三茄子。


 ――想像するに、何となくだけれど、間違い探しの絵のように現れるイメージ。



 その夢は元旦の夜、つまり一月二日の朝までの間に現れるという。……でも、昨日の訪問者と梨花りか、そして僕と一緒にやった双六のように、僕は振出に戻ってしまった。


 すべては賽子の目が選んだこと。


 僕は右手で振り出しただけ……そうか。振り出したから振出なのでは? ふとそう思ったの。するとクスクスと、笑い声が聞こえて。それもかなり近く耳元で。


「ちょ、くすぐったい」


 という具合に、僕は耳元が弱いの。それはもう充分承知で、


「ごめん、千佳ちかの洒落があまりに突飛だったから」


 と、傍には梨花がいる。同じお布団の中、しかも同じベッドの上で同じお部屋。見渡せばいつもと景色が異なり、一瞬パラレルな世界かと思われた。


 顔……とっても近い。息がかかるほど。


 きっと双子だから許された距離なのかな? 恋人よりも、もっと近い距離。何しろお母さんと同じお腹の中にいた子だから。人の形になる前を知っている唯一の子。


 その姿は記憶には残されていない。もし残されているのなら、


 一富士二鷹三茄子を見る方が、もしかしたら簡単なのかもしれない。……そして梨花は言うの。「千佳は見た? 一富士二鷹三茄子」と。


「ううん、まだ見たことがないの。梨花は?」と、僕は問い返す。質問には質問。


「ないかな? 千佳と同じで」と、笑みを浮かべる梨花。そして重ねるの、唇を。


 なので、チュッと。


「ちょ、千佳、何チューしてるの?」


「えへへ、去年の仕返しだよ。今年は僕の番。毎年恒例になりそうだね」


 と、勝ち誇る。さあ、起き上がってまたルーティンへ。早朝の景色の中を走るの。そして後は、またも梨花と一緒にお風呂。それから勝研ゼミで遊ぶ……いや、お勉強だ。



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