第六三六回 千佳の決意。赤い狐と緑の狸。
――今この時を全力で。お目にかけるのだ、僕の全力全開を。
……ホントは思っていたのだけれど、エントリーできたらいいな。そう思っていたの。
頭は真っ白で、
書ける自信がなかったから。
でも、そんな僕の心を、梨花は見通していた。だから、ハードルを与えたの。挑戦を避けようとしていた僕の弱い心……スパルタなお姉ちゃんだと思えるの。
赤き狐と緑の狸を目の当たりにして、
……したことによって、蘇った記憶。梨花と初めて会った時と思っていたのだけれど、
もっと温まるエピソードがあったの。それを書く時期も、ちょうど十二月の頃だった。
寒い日に、心に染みる温かさが……
そこにはあるのだから。そして落ちる雪……
バスを降りたら、雪がヒラヒラ舞っていたの。
息も白くて、急に気温はゲレンデ並みの寒さ。
「あの日も、こんな感じの寒さだったね。人肌恋しくなるくらいに」
と言いつつ、梨花はファサッとマフラーを……かけてくれた。僕にも。とっても長いマフラーで二人は繋がる。赤い狐、そして緑の狸を持って、駆け込むレストハウス。
そこは、とあるインターのレストハウスなの。
寒ブリツアーでもコースの中に組み込まれている場所。でも今は、手持ちのカップこそが、僕らの宝物。熱いお湯を注ぐの。テーブルの前、梨花と並ぶ。……因みに、赤い狐は梨花で緑の狸は僕だから、あの日と同じなの。まだお家も、ボロアパートの頃。まだ梅田にもなっていない頃の、まだ星野だった頃……梨花が双子の姉と、知る前の頃だったの。
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