第六三四回 爽快に、今を紡ぐメモリーズ。


 ――心は、まるで引力のように、この再会を祝していたの。



 青空スタヂオを引き継いだこの場所は、アオハル写真館と名付けられた。椎名しいなさんが今も、昔ながらの銀塩写真の歴史を現代に、そう紡いでいるの。


 紡ぐ……という表現にしたのは、ちゃんと訳があるの。未来へと伝える前向きな考え方だから。ここを訪れるこれからの、僕らのような修学旅行の生徒たちに、また伝えてゆくの。そして見守るの、この子たちが爽快に成長してゆくのを。


 早坂はやさか先生は、そう望んでいるの。


 椎名さんと、春美はるみさんに……「俺は、違った道を歩んだけど、お前たちには、続けてほしいんだ。これからも、この先も。俺は学校の先生を続ける。ヨボヨボになってもな」


「そうだな、ヨボヨボになっても、俺たちはここで写真館をやってるよ。去年は最大のピンチを迎えたがな、コロナ禍で……でも、乗り切ったから。子供たちのアオハルを、守ってゆくんだこれからもな。いい歳したオッサンが言うんだ。生半可じゃないよな……」


 ――と、いうことは、


 早坂先生は、昔は写真屋で、青空スタヂオに勤めていたってことなの?


「七年程だったけどな。こいつらは、もう三十年のプロフェッショナル。僕なんか全然及ばない一つの道を歩んできた、まっすぐな匠と呼ばれる人たちなんだよ」


「おいおいみつぐ、お前だってあれから先生を、ずっと続けてるじゃないか。それに噂で聞いてたんだがな、お前にはちゃんと弟子がいるそうじゃないか。希薄となった今の学校でもな、お前の熱い教師の姿を、今も紡いでいる健気なお弟子さん……」


「おい椎名、誰から聞いたんだ?」


「それはな、俺は春美からだけど、春美はな、……お前の最愛の人から」


「なっ、……リ、リンダか」「そうそうリンダちゃん。偶には構ってあげないとダメよ」


 と、春美さんがお話を盛り上げる。それにしても……椎名さんは『椎名』というのが名前? まさか下の名前ではないよね? 春美さんは下の名前だけど、名字は何なの?



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