第六三〇回 淡くも、潮騒のメモリーだね。


 ――降りるバスから。そこから始まる自由行動という名のお時間。基本はお散歩。



 海からは、近い場所にある。……そうなの。実は、お祖母ちゃんが住んでいた場所に近いの。ならば、この海って、夏に一回訪れているの。初ビキニを披露した海だから。


 今のスマホにも、その写真はあるの。


 梨花りかと一緒に写っている海辺の写真……僕にとっては数少ない、家族の写真なの。


「へえ、綺麗に撮れてるじゃないか。

 似合ってるな、梨花お姉も千佳ちかも」と、感激にも似たような声が聞こえるの、またも耳元で。「ちょ、勝手に見るな。それに耳元、僕弱いんだから」と、言い放った。それ程までに耳元は弱いの。……髪で隠れているけど、ヌッと現れる顔も、その息遣いも……くすぐったいから「太郎たろう君、いい加減にして。あんまりふざけると『メッ』だから」


「そんなキッと睨まなくても……

 何でそんなご機嫌斜めになってんの? それに大丈夫か? 熱でもあるんじゃ……」


「そ、それは君のせい。……心の準備が必要なんだから。昨日の、ほら……」


「ン? 何だい? 昨日のって?」「もう知らない! 寒ブリのこと、訊きたいのっ」


 何となくだけど、バスの影から、

 そんな僕らを見て、梨花が笑っているような気がするけど……


 僕は歩くの。少しでも、


 火照る顔を、冷ましたいから。でもって、太郎君は太郎君で「何怒ってんだよ?」と訊きながら、僕についてくるから、「怒ってない」と答えつつ、ガツガツ歩くの敷地内。


 ここは、そう……

 あのCMで見かけることも多々あったテーマパーク。『芝の政』というワールドだ。


 ウォータースライダーも完備した場所、さらにはスケートリンクも……夏と冬を両方楽しめる内容。パッドゴルフも楽しめて大人から子供まで。そしてその中でも、僕らが向かうところは、ステンドグラスで飾られる場所。――そう。一生を飾る想い出を残すの。

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