第六二六回 それは、余韻深し夜も更けて。


 ――目覚めると、まだキスの余韻。


 実際は、唇だけではなく体中にも残っていた。



 今でもお月様は、見ているの僕を。

 窓の向こうから、或いは旅館のような、障子の向こうから……


 僕と太郎たろう君の秘め事を口外しないと厳守しながらも、もの語らぬ、穏やかな存在。


 そして何故、

 ――僕らと違う学校の生徒である太郎君が、この場所にいたのか?


 実は、太郎君だけではなかったの。……せつも、美千留みちるも、つまりは市立天王てんのう中学校の三年生も、この場に集っていた。益々有り得ないお話と思うけれど、それは僕も知らなかった謎が隠されていたの。僕らの通う私立大和やまと中学・高等学園と、……僕が、太郎君たちと一緒にほぼ一か月だけ、登校していた市立天王中学校は、姉妹校だったの。


 誰が言ったのか?


 それは可奈かな。やはり情報通だ。それだけでなく、実は梨花りかも知っていた。


 でも、僕には言わなかったの。意図的に内緒にしていた……僕と一緒に学園に、通い始めてからこれまで、ずっと……。今日初めて発覚して、梨花は言うの。


「もう大丈夫みたいだから、行っといで、美千留さんの所へ」


 と、送り出してくれたの。それはまさに、小学校の修学旅行の再現。……行けなかったとも、行かなかったともとれる、小学校の修学旅行。だから一晩だけ、戻るの。


 あの日できなかった、美千留との思い出に。今なら、楽しく過ごせると思う。僕らが小学六年生の時の面々が、同じ部屋に集ったの。僕は枕を持参してお邪魔して……皆が笑顔で迎えてくれた。思い出話よりも今のお話の方が断然、盛り上がるお話だから。


 カードゲームも、皆で一緒のお風呂も……


 そして枕投げも。始まりは僕から。提案者が僕だから。すると何と、いつの間にか太郎君もいて、何故かしょうさんまでいるの。「千佳ちか、楽しそうだな」とか言いながら。



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