第六二〇回 其々のカレー。そこから生まれる話題が流布した。
――それは共に調理をするところから。コンクリートの流し台に立つ。
皮をむいてみる。玉葱の……
その一枚一枚に、人生の重みが……その切なさに涙する。
「ちょ、ちょっと
「へっ? 涙出ちゃったから、つい……」
「もう学芸会は終わったでしょ? だいぶ前に、少し前に」
記憶には新しい……というよりか、残る印象。映画の一コマ一コマのように、脳裏に深く刻まれているの。その果ての、愛おしい人との目覚めのキス。ボン! と音を立てながら、顔から火が出る程に真っ赤。思えば皆に見られていた。白雪姫と王子のキスシーン。
――そして、
思い出すことといえば、
「千佳ちゃん、お家のカレーのルーは、いつも何使う? バーモンド? ジャワ? メタルなインド? それともオリジナル? 甘口? 中辛? 辛口? スパイシー?」
という具合に、
「バーモンド。今は辛口」
「へえ、大人。私なんか甘口なのに、今も……」
そう言われてみれば、学園で用意している材料って何口? ……と思いながら、ゴソゴソと調べてみる、白くてスーパーの買い物袋のような趣の袋の中を見る。……手探りも併せて見るとだね、……フムフム、中とって中辛。ジャワだったらバーモンドの辛口に匹敵するのだけれど、バーモンドだったから……「大丈夫だよね? 天気ちゃん、甘口じゃないけど」と窺う僕の顔を見るなりニッコリと、微笑みも見せながら
「大丈夫よ」
そして煮込むのは、お野菜やお肉の形を残す? それとも……「全部ルーと同じように溶け込ますの。でも、お時間の関係で残っちゃうね。形も、それから想い出も。
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