第六一七回 ビッグなイベントを迎える朝は、いつものように。


 ――そう、いつもと変わらない朝。もしかしたら、試験当日の朝もこんな感じかな?



 そうであるなら、僕はきっとメールをする。或いは、覚えたてのLINEになるかもしれない。意中の人が、僕が高等部に進学する学園を受験するのだから。


 カーテンから零れる朝の風と、その陽射しの中で、先ずはチェックから入る。メールの受信があるかどうか……早速あったの、昨夜に機種変更をしたスマホの画面に、ハッキリクッキリしっかりと。太郎たろう君からのメール。意外と、絵文字付きなの。


 その点、僕はシンプル。

 文章だけだから。……すると、何だか背後に気配を感じると思えば、


「ちょっと梨花りか、何覗き込んでるの?」


「新しいスマホ、どんな感じかな? なんて思っちゃったから」


「……ふ~ん、何か怪しいね。

 チェックしてるんじゃないの? 僕と太郎君が向こうで合流してその行く先とか……」


「へえ、ちゃんと予定あるんだ」


「ダメだよ、二人きりで健全とした自由時間を過ごすんだから」


 と、声にした途端、ハッとなった。梨花はニンマリとしたの。


「健全とした自由時間ね。わざわざ健全とした……と、付け加える辺り、例えば大人チックなデートとか? まあ、内緒にしててあげてもいいんだけどさあ……」


「何? その目は? 僕に何かしろと?」


「苺パフェ……」「はあ?」「ホテルの喫茶店で奢って」「……ねえ、それだけ?」


 コクリと頷く梨花。思うに、怪しい以外の何ものでもないのだけれど、どう考えてもそれだけで済まなさそうな……しかしながら、何が想像できるわけでもないので、


「わかった。奢ってあげる」


「ありがと、千佳ちか」と、大喜びな梨花。きっと何か含みがあると、そう思いながらも、


 本日は十一月十六日。この日から十八日までの修学旅行の当日を迎えたのだ。



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