第六一〇回 日曜日の朝に、どこか遠くへ行きたいと奏でるの。


 ――走る電車から見える景色。僅かなる白い息と、そして歌も道連れ。



 今日は日曜日。とある旅番組の影響で、僕も釣られて電車に乗っていた。……とはいっても、この私鉄沿線で行ける範囲は、乗り換えや線を変えたのなら広がるのだけれど、僕はやっぱり京の都の線を、ウメチカのある方面へと……向かっていたの。


 そこが、この物語の始まりの場所だから。


 この間、ティムさんと会ったことで、無意識にこの場所を選んでいた。そこはまた、出会いの場所でもあったの。ティムさんとの出会いの場所……今はもう季節も違えば雨ではなく、晴れ渡る青空。時折感じる緑の香りも。着ているものもベージュのコートなの。



 換気しているから靡くコート。コートの下は裸……


 あっ、お洋服はちゃんと着ているよ。僕には珍しくスカートだけれど。言おうとしたのはね、裸の心。物語の始まりの頃よりも近づいている。角も丸くなった。


 裸の心はね、喩えるなら鏡……

 自分を映し出す鏡なの。執筆する度にそう思うの。


 ならばその鏡で見ると、表情も柔らかくなったのかな?

 あの頃よりも……


 天気てんきちゃんの笑顔のように。もうすっかり回復しているようだ。この度の旅は、歌の通りに一人旅……でも、久しくとなるけれど、決して遠くはないの。プチ旅行の部類だ。


 この先にある、銀杏並木のイメージにも相応しく、

 そして僕には人生で初のビッグなイベント。遠足という規模を超え、遥か遥か彼方へと向かいそうな世界。来たる修学旅行だ。そこでは皆が一緒。だから今、


 駆け出したくなるの、その日のために。


 そう思った時だ。――千佳ちかちゃん! と、僕を呼ぶ声が聞こえたの。


 振り返ってみると、そこには。――天気ちゃん! と、呼ばずにいられない子がいた。



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