第五九九回 丁度そのタイミングの訪問者。


 ――学芸会で熱帯びるクラスの中へ、一人の迷い子か、それとも訪問者なのか?



 その姿を現したの、或いは来訪者が。それはそれは艶やかな黒髪。大人びた……だけれども、やんちゃ系の、ちょっと怖い人……みたいな。そんなことこんなことを思っていると、じっとこっちを見ているの。アワワ……睨まれている? でも、ここは教室。しかも僕は生徒で、皆もいるから、思い過ごし。ちょっとばかりの自意識過剰だったね。


 ……って、


「おい、何無視してんだよ。

 お前が見に来てほしいっていうから、来てやったってのに」


 それって、僕? 身に覚えがないのだけれど……でも、無視しているのも何だし、一応は反応してあげようかと、勇気を出して近づいてみる。廊下側へ。そのドア付近まで。


「あの、僕に何か用でしょうか?」と、声を掛けてみると、「あん?」と、ギロッと睨まれ……「すみませんけど、僕とお会いしたことあったのでしょうか?」と、声も上擦ってしまって、「何の冗談だ? 別にウケを狙う場面でもないだろ、梨花りか」……「へっ?」


 ――梨花?


「あの、すみません。僕は梨花の双子の妹で千佳ちかと言います、初めまして。梨花は今、トイレに行ってまして……あっ、戻って来たようですね」


 と、その台詞の最中、トタトタと近づく足音……逆光のため、シルエットからの近づきながらの判別。紛れもなく梨花の姿が近づいてきた。するとどお? この人は、見比べるの、並んでいる僕らを。驚くのも無理はなく、瓜二つ程に似ているから、僕らは。


「あっ、紹介するね、千佳。この人は一人称が『俺』でも、こんな格好でも女の人。そんなに怖がらなくても大丈夫、とっても優しい人だから。――葛城かつらぎしょうさん。学園に興味があるってことだから誘ったの。……って、今日じゃなかったよね?」


「今日だよ、今日。十月二十一日は。何かイベントがあるって言ったよな?」


 ……はあ? それってもしかして、と言わんばかりに、僕は梨花を見た。



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