第五九三回 どうなるの? ここから先は。


 ――少しでも、前向きに考えたい。きっと誰もがそう思っていることだろう。



 そう思いながらも……「痛―い」と、声にする僕。


 鼻の頭。鼻血は治まったけれど、きっと紅くなっているの。「ほら、動かないの、じっとして」と響く声。ここは保健室。または医務室とも言われるけれど、消毒液の匂い、そして染みるから、やっぱり保健室。目の当たりのは梨花りかが、その横には可奈かながいる。


「それにしても、見事だったね。まるで漫画みたいにドアに激突とは……」


 と、可奈は笑いを堪えるので必死。手当てしてくれている梨花も、何となく含み笑いに見えて……「どうせ僕はドジっ子ですよ。二人とも僕のことほっといて、パッと避けちゃうんだから」と、鏡がなくてもふくれ面。それが証拠に「そんなに膨れないの、可愛い顔が台無しよ」と言いながらも、何々? 顔が笑っているのだけれど、梨花も可奈も。


 そこにアマリリスが鳴り響く……


「お二人とも、授業始まるよ。僕のことなんかほっといて」


「何言ってるの」「決まってるじゃない、千佳ちかを置いてったりなんかしないよ」と、梨花も可奈も……言ってくれるの。何だかギュッときちゃって、「……どうなるのだろ? 学芸会。それに、早坂はやさか先生も……先生、辞めちゃうのかな?」と、零れてしまったの。


 ……沈黙しちゃったの。皆、三人とも……


「千佳君、どうだ、大丈夫か?」


 ――と、その野太い声とともに、保健室のスライド・ドアが開いて姿を見せたの。


「早坂先生、授業はどうしたの?」と、思わず訊いた。


「ん? 今はないから、君たちの様子を見にきた。さっきはすまなかったな、怒ったりして。……僕のこと心配してくれてありがとう。なあに、大丈夫さ……」


 いつもの穏やかな早坂先生に戻っている……ようだけれど、何だか、翳りが……


「何だ何だその顔は? 疑ってるのか? 何も心配はいらないし、学芸会も続行だ」


 と、笑顔を見せる早坂先生。……なら、僕らも笑顔にならざるを得ないね。



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