第八十三章 羽搏け高く、羽搏け強く。

第五九一回 風に乗って、舞う鳥のように。


 ――その日から始まった役作り。そして早朝のジョギングも再開したのだ。



 それは心の洗濯も兼ねて。……そう。色々あり過ぎたから。


 だから少しでも、登校する時の心の摩擦を和らげたいと思うから。だからこそ風に乗りたい、そんな思い。地を駆けるけれど、心は羽搏く鳥のよう。もしかしたら、鶏……


 それでもいいと思うの。


 そして一人よりも二人……太郎たろう君が横に並ぶ。


「よお、調子はどうだい?」


「んーまずまずかな? ボクッ娘の白雪姫なんて前代未聞だから」


 ……そうなの。新解釈の白雪姫は、僕に合わせてボクッ娘なの。しっかりとプリントアウトされた『ザ・脚本』には、僕の台詞は、しっかりと一人称が『僕』となっている。


「まあ、そう言ったんな。天気てんきちゃんは、お前を気遣ってくれたんだからな」


「そうだね。感謝すべきだね。……やっぱり僕は、私って言えない。僕が私って言えるようになったら、その時はもう……きっと天気ちゃんも元に戻って、喋れ……」


 クシャッ……と、


 太郎君は僕の髪を撫でながら「……元に、戻らなくていい。俺は今の、ボクッ娘の千佳ちかが最高だと思うぞ。風に乗って羽搏く鳥のように、自由な白雪姫……だから」


「でも太郎君、ホントにいいの? 学芸会のために学校休んじゃって。それに学園の生徒じゃないのに、練習に参加しても。……天気ちゃんが勝手に決めたことだから王子役」


 ――王子役なの。


 梨花りかの予定だったけれど、新解釈とタイトルを改題したことを皮切りに、有り得ないことだけれど急遽、太郎君を起用することになったの。でもそれって、本当に……


「大丈夫さ。何でも早坂はやさか先生の同意のもとだって、梨花お姉が言ってたから」


 って、もしかして仕組んだのは梨花? そして学芸会へと盛り上がるはずの学園、クラスでは、……その一方では、予想を裏切る重いお話が、静かに展開される趣となった。



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