第五九〇回 僕の最愛のダーリンなの。


 ――と、紹介しちゃった。目の前には天気ちゃんが、そしてキョトンとしちゃって、



 緊張のあまり、つい……心の声が、そのまま出ちゃって、天気てんきちゃんが……その、ドン引きしちゃったみたいで、僕は「あっ、あ……」と唸りながら、太郎たろう君の顔を見た。


 でも、次の瞬間……


 クスッと、天気ちゃんが笑ったの。「ち……あり……」と、僅かながらだけれど、声が聞こえたの。そして手を引っ張ったの、天気ちゃんが僕の手を。そのままお家の中へと。


 太郎君も一緒だ。僕の横にいる。


 天気ちゃんは見せてくれた。それは起動しているPC……その画面を。それに対して一生懸命に語ろうとする天気ちゃん。満足に言葉にならないけれど、必死に訴えている、伝えようとしている。……でも、それは、いじめのことではなく学芸会のこと……だった。



 傷ついているはずの心でも、


 天気ちゃんは書いてくれていた。『新解釈の白雪姫』の脚本を。堪らず僕は、涙が溢れてきちゃったの。うんうん……と、僕の頭を撫でる天気ちゃんは、とても強かったから。


 そして天気ちゃんは、太郎君の手を取って、


 ――千佳ちかのこと、お願いね。と、そう聞こえたの。太郎君は「ああ、学芸会は成功させるから、安心してね。僕は霧島きりしま太郎、よろしくね、天気ちゃん」と、……そう言ったの。



 学芸会に懸ける天気ちゃんの思い。


 半端な気持ちでやったら、激怒されそうだ。もしかしたら、天気ちゃんにとっては、いじめを超える程の覚悟なのかもしれない。……その時はまだ、僕は知らなかったのだ。これから起きること。想像をもできないような未来に直面することを。


 漠然とはしているのだけれど、その様な空気が漂うの。ただ今は、このまま進んでゆくしかないの。『新解釈の白雪姫』に関わる中で、解ってくるような、そんな予感……

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