第五八七回 ……暫くは様子を見よう。


 ――そう告げられ、早坂はやさか先生から。その病室を離れて、僕らは戻る各々の場所。



 或いは、その空間へ。


 それから一週間、僕らは毎日、その病室を訪れる。平日は放課後になってから、休みの日は、その午前中。その病室は白い空間。同色のカーテンで仕切られているの、きっとプライバシーを守るため。その中で天気てんきちゃんがいる。もう起きられる状態にまで、


 ――回復。僕らとディールームで、語ることも多くなった。


 僕らは……僕ら三人、僕と梨花りか可奈かなだけは……


「あ……」「う……」と、声を漏らす天気ちゃん。言葉にならない声で、反応してくれるの。――でも、まだ以前のようには、ならないの。でも、それでも笑顔は……笑顔だけは見せてくれるようになった。その笑顔も、また以前のように近づく……そう近づくの。



 笑顔の裏側。その笑顔に隠されていた、その部分……


 僕らは知ることとなるの。これまで知らなかった、天気ちゃんの身に起きていたこと。


 それが表面化するまでに、この子が一人で抱えていたことを。独りぼっちで抱えていたことが発覚したの。数多くの、誹謗中傷……SNSに残っていたの、彼女のスマホには。


 その発信元は?


 いじめは、もう陰湿化していた。僕の時も陰湿なものだったけど、それ以上……見えない処からの攻撃。でも痛みは、理解してあげられる。乱暴された時の痛みは、……僕も同じだったから。またフラッシュバックもあったけど、梨花のお陰で大丈夫になったの。


 荒療法だったけれど、

 梨花は敢えて心を鬼にして、そうしてくれたから、僕は軽く受けられた。


 発信元については可奈が、もうすでに調査を開始していた。梨花は学園内の様子を窺っている。なら僕は……僕にできることは、「天気ちゃんを元気づけてあげて」と、梨花は言うのだ。多くは語らなかったけど、梨花はその役割を僕に託してくれた。



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