第五八六回 ……急を告げられ今も尚。


 ――行く前に、食事はキッチリ摂っておこうと早坂はやさか先生も尚。

 それに可奈かなも同感し、僕らを見守る二十四時間を過ぎたぶりに喉を通す食事。



 キリキリする胃の痛み。喉を通る度に熱く、空腹だからといってもガッツリという感じには程遠くも、「ゆっくりで大丈夫だから、しっかりと、腹が減っては戦ができぬだからね」と、可奈は言う。テーブルを囲み、僕らを見守っている早坂先生とともに。


 梨花りかも、僕と同じ痛み……


 僕に付き合ってくれた。僕は梨花に甘えていた……いつの間にか、それが当たり前のようになっていて「……その、ごめんね、梨花……僕は自分のことばかりだったね……」


「謝るの、なし。妹が姉に甘えるのは普通だよ。僕の方こそ、ごめんね。……痛かったよね、叩いたりして。きついことも、昨日から……ええっと、何というか」


「ううん、梨花の方こそ謝らないで。全部僕のために……だったから。梨花の言った通りだから。梨花が毅然としてて、心強かったから。……その、ありがとね」


 うんうん、と頷く早坂先生。


 昨日とは違って、いつもの表情に戻っていた。穏やかな趣のその表情。



 ……

 …………さあ、出発だ!


 車で走る。黄色い軽自動車。もちろん早坂先生の運転。行く先ももちろん病院。千里の総合病院。そこの……五階だ。昨日と同じく個室……だけれども、入ることができるの。


 天気てんきちゃんは、


 ――起きていた。顔色は戻っていて、意識もハッキリしていた。でも、顔は腫れていて包帯も、巻かれて、痛々しさが残っていて……見守るご両親も、「来られて頂き、ありがとうございます。天気も、御覧のように喜んでいますよ」と、迎えてくれたのだけれど、


 ……言葉が、声が出せないの? 天気ちゃんは、無口のままだった……



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