第五八四回 赤色の回転灯が脳に刻む。


 ――いつまでも、いつまでも残るの。纏わりつく、その刻まれた記憶。



 天気てんきちゃんの意識は、戻らないまま……


 今日は、帰ることになった。病院を後にすることになった……


 早坂はやさか先生が駆け付けてきて、僕らをお家まで送ると、車に乗せた。僕らは気が気でなく残るつもりだったのだけれど、「ここからは大人の話だから、君たちはもう帰るんだ」

 と、怒った口調のように聞こえたの。


 いつもの早坂先生ではなく、表情も険しく怖くて、何も言えずにそのまま……お家へ。


 可奈かなから先にお家に着く……


 僕と梨花りかも、お家に着いて、……無言のまま、お部屋へ。お母さんもママも、お祖母ちゃんもパパも、声を掛けてくれてたのだけど、耳に入らなくて、梨花とも其々のお部屋へ、お部屋に入って、言葉を失ったまま、涙が止まらなくなって、ベッドに蹲って声も殺して泣いたの。パニックになった時の光景が繰り返され、脳内で。まるでパニックになった時のエンドロールする独り言のように、涙と、喉の奥から込み上げる熱さは、繰り返され……繰り返されるの。そしてそのまま、……気が付けば、もう朝になっていた。


 スマホには、


 ……何もなかった。着信も一切。ベッドの上で上半身を起こして見渡すと、いつもと同じお部屋。その広さも、その空気も、見えるのは変わらない日常の風景……


 フラフラと……


 歩く僕は、お外に出る。歩く、歩いて行く……どこに向かうのか? ジョギングにはもう、心はそこになかった。通り過ぎる人の顔さえも、瞳には映らず虚ろとしていた……


千佳ちか!」


 と、僕を呼ぶ声が、その虚ろな心の中でこだました。梨花が、もう目の前にいた。振り向いたら……するとまた、どうしようもなく込み上げてきたの。出し切ったはずの涙までも。梨花の胸の中で号泣。梨花はぎゅっと、抱き留めてくれた。



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