第八十一章 移りゆく秋の調べ。風立ちぬもまた。

第五七三回 だから、僕は駆け抜けるの。


 ――そのためにはまだ、順番というものがある。僕の駆ける番はもう少しあとだ。



 あの日、シャルロットさんと聴いた曲の流れのように、


 激しくも目まぐるしくも、密やかに時間は流れていて、ハッとした瞬間に訪れるアマリリスの調べのように駆け抜ける廊下……HRに遅れそうな中、教室へ向かう僕。


 その時のことを連想させるように、


 訪れた九月二十一日。早坂はやさか先生の五十二歳のお誕生日でもある今日、当日だ。



 ――クラス対抗・駅伝レース。


 駆け抜ける風との一体感。僕は感じる、ふわりふわりと心地よくも。お空は、そう快晴だね。足取りが物語るように、とっても軽快なの。「いい表情だね、千佳ちか」と、そう梨花りかに言われる程だから、きっと大丈夫。今朝だって太郎たろう君と、一緒にジョギングした。いつもと変わらない特別でもないルーティーンだから、萎縮もない変な緊張もない。


 そして午前の十時。


 ゼッケンに『星野ほしの千佳』と、デカデカと書かれた半袖のシャツ。その下はスポーツブラを着けている。……着替える最中に思うことだけれど、他の女子とは、もちろん個人差はあるのだけれど……フォルムも、僕なりには女性に、なってきたように思うの。


 日々丸みを帯びる身体。お尻も……パンツも梨花のお勧め品だし、胸の膨らみだってあるの、女性の胸らしくスポーツブラがしっかりフィットしているし、体操着の上からだってそれなりには。何しろ、梨花と同じ位にはなっているから。お風呂の時に毎日、洗いっこの時にも確認できるの。同じような成長。裸体に至るまで、ソックリだから。


「……どうしたの、千佳?」


「ううん、何でもない。頑張ろうね、梨花」


 そして集うグランド。中等部三年生が広がる。ソーシャルディスタンスを確保する意味合いも含めて。かつては全校生徒が並ぶ面積を占めている。ゆったりとした構図だ。



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