第五七二回 チカチカというニックネームも定着。


 ――今ではもう。あの模擬教習から、僕は『チカチカ』と呼ばれるようになった。



 このニックネームは、せつだけが、僕を呼ぶときに使っていたのだけれど、

 摂のお家に、一緒に住んでいるシャルロットさんにも広がったみたいで、彼女からもそう呼ばれるようになっていた。ニックネームとはいっても、この二人だけだけれど……



 今は、音楽室。


 シャルロットさんと二人……と思っていたのだけれど、先客がいたの。夢中でピアノを弾いている中等部一年生の鈴木すずき公生きみお君。それに、恵比寿えびす公太こうた君の姿もあって、


「おっ、千佳ちか、久しぶりだな」


「本当に、御無沙汰してるね。僕はいいけど、梨花りかには『先輩』って付けてる? 君の直属の先輩なんだから。そういうとこ、梨花は僕と違って厳しいんだから」


 ……もう慣れちゃったけれど、公太君はそういう子。


 梨花は時々愚痴を漏らしていたのだけれど、……でも、本当は、頼りになる存在うのようだ。時折さり気なく優しさも見せる時もあって、それって、まるで梨花が……


 そう思考の中へと入る最中で、


「はいはい、わかってますよ、千佳先輩」


 と、公太君の声が割って入った。……あっ、そういえば、公太君の身長って確か……


 僕より低かったよね? でも、もう僕と同じくらい? ううん、超えちゃったの? 団栗の背比べのレベルだけれど……やっぱり男の子。いつの間にか逞しく、ドキッとするほどに。そして今はもう、クラブ活動も停滞しているから……梨花もきっと待ち焦がれて。


「今日も来たんだね、シャルロットさん」


「キミオ・スズキの生演奏が聴けるなんて、ホントアリガト教えてくれて、コウタ・エビス。ユーもクラシカルミュージック大好き? なら、ファンタジックね、友情って」


 学園内での不思議な繋がり。――そして、僕の知らない処でも物語は展開していたの。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る