第五六九回 まずはスポーツの秋。とにかく走る。


 ――或いは駆けるとも。今朝もジョギングに精を出すの。



 一人なら『走って』いるのだけれど、二人だから『駆けて』いる。


 ちょっとした言葉遊びのつもり。お風呂も二人なら『洗いっこ』というように、二人で走ると『駆けっこ』になるのかな? そうなら素敵だねと、そう思えるのだから、


 ――負けないの。


 色々と規制のかかる新型ウイルスに支配された日々の生活。心まで支配されない。支配されてたまるかとの、そのような思いが二人を強くしている。一緒に並んで走る度。


千佳ちかなら大丈夫さ」


 と、言ってくれる太郎たろう君。それは二十一日に、それも学園内ではいきなりのトップバッターを飾る中等部三年生の四クラス。その勝敗を決めるアンカーということに対し。


「ありがと、太郎君。そう言ってくれるだけで頑張れる」


 と、その言葉通り、とても励みになる。その風景は今の心の色づきと似たような、夜明け間もない朝の訪れ。これがルーティーンとなるなら、素晴らしき安心感といえる。


 そしてジョギングから、暫しのブレス。


 ウォーキングに切り替わって、児童公園の散策を楽しむ。……まだ充分なの、Tシャツに短パンだけで。寒くもなく心地よい風。火照る身体も温い汗も、良い加減となる。


 でも、お話は盛り上がる。


「白雪姫。是非とも観たいな、千佳の白雪姫。……フムフム」と、僕の顔をじっと見るのマジマジと。恥ずかしいと思える程にまで。きっと脳内を駆けるイメージ。太郎君の脳内に描かれる白雪姫になった僕の姿。その姿こそが、当日の僕が扮する白雪姫となる。


 食する赤い林檎は、毒入り……

 僕は眠るの。なら、目覚めは? そのイメージが過った時だ。


「千佳、白雪姫はキスで目覚めたよな? 相手は? 王子様は誰?」と、太郎君はマジマジと訊くの。ある意味お約束な展開だけど、……ヒントは歌劇団のような感じなの。



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