第八十章 新章たる新学期。本当に始まる二学期。

第五六六回 そして舞台は九月へ。師走も近づく。


 ――二学期のゴールは師走。だからこそ、今は教え子が走っていた。



 つまり僕ら生徒。……でも、自発能動だ。元々は外出自粛のために発生する運動不足を解消するために始めたジョギング。気付けば、もう一年を過ぎていた。


 見慣れた風景は、もう目を瞑っていても走ることができる。……でも今日から、その風景は変わる。ほら、近づくの、近づいてくるの。目はしっかり開ける。


「よお、千佳ちか


太郎たろう君、おはよ」


 と、息も途切れずに交わす軽めの挨拶。爽やかさを強調する。だからお空も快晴だ。


 そこからは並んで走る。背後から僕らを追い越す自転車や人があっても、ペースは変わらない。近頃は煽り運転のお話も聞くけれど、ここでは、そんなことは起きないのだ。


 僕らは、この僅かな時間を楽しみたいから。

 猛ダッシュには至らない、ゆっくりペース。


 僕のお家と太郎君のお家の中間地点にある児童公園こそが、合流の場だ。そこを二から三周まわる。そして、お互いのお家に向かうため、ここで別れるのだ。


 太郎君には太郎君の朝のルーティンが、


 僕には僕の、其々の朝のルーティンが、……そう。あるのだから。お互い登校する場所も異なるから。まるで大きな縄跳びを飛ぶように、呼吸とかリズムが大切と思うから。


 お家に帰れば、梨花りかと一緒に朝シャン。


 そして着替える学園の制服。……その過程で、僕は僕の身体の日々の成長を見るの。幼児体型だった身体も、思えば女性ぽくなってきて、下着も気にするようになって……


 いつからだろう? そう思うようになったのは。ブレザー制服の着こなしも、ボブの髪を整えるのも。それは等身大の、鏡のような存在が、目の当たりに近づいてくるから。


「千佳、準備OK?」


 と、声を掛けてくれる梨花のことだから。この一連が僕らの、朝のルーティンなの。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る