第五六二回 予定変更? 駆ける午後の風。


 ――そうなの。文字通り駆け出した。午後の風に誘われて。繰り返す夏の陽射し。



 夏の締め括りを思わせるような気候だったけれど、駆け出すそのタイミングに合わせて今再びの蝉時雨。……気温も上昇し、そこに生まれる安心感。それをも引き連れて。


「予定変更だよ、太郎たろう君」


「急にどうしたんだ? 俺の家に行きたいだなんて」



 僕は引っ張る太郎君の手を。


 何がともあれ走るの。それは自転車でもなくバスでもなく、僕らの脚、両脚なの。


千佳ちか、ちょっと待て。何で走ってるんだ?」


「何でって大事なことだよ。

 それに運動不足だよ、太郎君。もうバテバテじゃない」


 僕が放つその言葉通り、息が上がっている太郎君。でも、まだまだこれからなの。本当に楽しい時は。――さあ、太郎君のお家までジョギングだよ。太郎君は兎も角、僕は日々励んでいるからこそ、咄嗟に思い付いたの。だから味わうの。ジョギングの醍醐味。



 喩えるなら、サウナの様……


 始めは熱いのだけれども、徐々に慣らしていけば、とても気持ちがいいのと同じ。ただ無理はしないで。本当に徐々に、徐々にだから……というわけで、


「歩こっ。それから水分補給。……ごめんね、急は良くなかったね」


「あっ、そんなつもりは……」


「ううん、一歩ずつだよ、太郎君。

 高血圧だけれどサウナ好きという人も、体調と相談しながら上手に楽しむように、無理はしないの。もしよかったら、これからも一緒に走りたいの、太郎君と」


 ……そうすれば学校が始まっても、太郎君と朝の出発ができるの。体力づくりだ。



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