第五五八回 迎える朝は、八月二十四日のものなの。


 ――それが今日だ。深夜にまで及んだ枕投げによる乱れよう。この十畳ほどのお部屋。



 嘸かし、摂のお母様はビックリされたことだろう?


 縦横無尽に並ぶお布団。その上で僕も梨花りか可奈かなも、シャルロットさんもせつも見るに乱れた姿というのか、開けている浴衣。起きたら僕の格好はパンイチ……ズレちゃって、


「ちょ、千佳ちか、お尻見えちゃってる」


 と、可奈が第一発見者となる。……笑みも浮かべて、昨日のモヤモヤも一掃されたように思えた。いつもの目の色に戻っていたの。僕も自然と笑みを浮かべていたのだろう?



「可奈、皆まだ眠っているようだし、目覚めの御風呂へ行っちゃおうか?」


「ウフフ、そうね。……同じ妹同士」


 というわけで即決! 枕投げで得た汗を流しにレッツゴーとなる。開けたガラス戸の向こうには、縁側を思わせるような、昨日と異なる趣の明るい大浴場。その向こうには早朝という名の白い世界の広がる露天風呂。ゆったりと心臓の鼓動に合わせて浸かる。


 密も密かもしれないけれど、

 僕らもまた、ファミリーのように親しい仲……御覧の通り裸の付き合いに至る。


 思えば八月二十四日は、毎年恒例のイベントがある日……だけれど今年は中止。辛うじて葉月はづきちゃんと怜央れお君が今日、私学展に出展するためのアクリル絵を完成させるとの、厳としたメールが入ったの。この白いお空は今、曇りを保っているけれど、後に雨。


 そんな情報も入る。その情報源は可奈から。


「葉月ちゃんたち、頑張ってるね……」


 と、しみじみと零す言葉。すると可奈はね、


「何言ってんの千佳、あなたのお陰で私は決めれたのよ、お姉ちゃんともう一度、ヴァイオリンしてみるって。……ホント、ありがと、なんだから」


 という具合に、いつもの可奈に戻っているように思えたの。何がともあれ……



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