第五五五回 しっとりと、それでいて賑やかな夜に。


 ――喩えるなら、寝室の豆電球だけの照明。お布団の中で語り合う二人。



 何故か二人だけ。和室……十畳ほど。畳の香り麗しく。二人は二人でも、梨花りかではないの。可奈かなが傍にいたの、僕のお隣のお布団に。うむ……記憶を遡りゆくの。


 そこで気付くことになった。


 露天風呂から、記憶がない。……「目が覚めたね、気分はどう?」と、可奈は言うの。


「何か、頭がぼんやりしてる」


「のぼせたのね。あんたが露天風呂でプッカリ浮かんでたから、せつもシャルロットさんも動揺しまくりで。梨花が見るに見かねて、あんたを運んでくれたの」


「ありゃりゃ……

 でも可奈は? どうしてここに?」


「あんたと同じ。あんたよりは軽いけど、のぼせちゃったの。演奏の後だったから……」


 そして記憶に蘇るのは、そう。演奏だ。


 摂と可奈のヴァイオリン演奏と、シャルロットさんのピアノ演奏。それはそれは……


「とても良かったよ、可奈。

 ……僕ね、ウットリしちゃったの」


 すると、可奈はムッと表情を曇らせて、


「まだまだなの、まだまだ……

 辛うじてなの。千佳ちか、あなたはどう思う? お姉ちゃんのこと。あなたも妹なら」


 お姉ちゃんって、梨花のこと? ……その意味がわかるまで、少し間が必要だったけれど、何となく、何となくだけれど、姉としての梨花のこと……と、思えてきたから、


「優しいお姉ちゃんだよ。いいお姉ちゃんでね……」


「違うの、そうじゃない。私が訊きたいことは」と、可奈は声を荒げた。何を怒っているの? と、思うばかりで、少し怖かった。だったら何? 何を訊きたいの?


「千佳は、梨花に対して悔しい思いをしたことないの? 梨花の妹として……」



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