第七十八章 ――ヴァイオリンからの第二幕。

第五五三回 今宵に於いての、可奈の役割は如何に。


 ――可奈かなの来訪は夕映えの美しき時刻。お空には一等星が輝いているそんな頃だ。



 そして可奈といえば、お星様だけれど……

 今日は少しばかり? ううん、大いに違っていた。一味も、二味も……


 爪弾く調べが、彼女にはあるのだ。彼女もまたヴァイオリン弾きだった。って、そんなこと一言も。それからそれから少なくとも、そんな場面を見たこともなかったの。



「可奈、ヴァイオリン弾くの? ……弾けるの?」


 と、あまりに突然のことなので、思わず訊いたその一言。


千佳ちか、嘗めないでよね。……って、カッコよく言いたいところだけど、実のところホント久しぶりなの。小学五年生の夏以来、弾かなくなってたから……」


 その瞬間の可奈の表情から察するに、訳ありとも思えた。僕の横では梨花りかも、きっと同じことを思っていたと思えるの。梨花も知らなかったこと。僕よりも、可奈と付き合いの長い梨花でも知らなかったこと。だから僕は訊けなかった。……その訳ありの部分。


 只々、梨花は見守るの。


 これから始まる演奏を。学園の音楽室にも似たこの場所で。これでも日々野ひびの家の敷地の内で、豪邸ともいえるこの場所が、如何程いかほどに広いのかを物語っているように思えた。


 そして……


「修学旅行といえば大きな御風呂だし、日本料理も振る舞うよ、シャルロット。それから枕投げもやるから。……可奈、私がリードしてあげるから、思い切り演奏するのよ。シャルロットも。ちゃんと飾るんだからね、チカチカに私たちからのプレゼントだから」


 せつが、可奈とシャルロットさんを纏める。摂と可奈はヴァイオリンのデュオで、それにプラスのシャルロットさんのピアノ。三人が三人とも、何かを抱えている。


 そしてクラシカルなイメージに思えたけれど、思いのほかアップテンポな曲……と思っていたら、『カントリーロード』のアレンジ曲。梨花と二人で笑顔を咲かせていた。



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