第五四七回 突然のことだけれど、準備は肝心なの。


 ――それは言うまでもなく、摂が企てた『修学旅行のために行う模擬教習』



 その対象は、僕……


 その日程は、令和三年八月二十三日から二十四日にかけて。何故かというと、せつの都合に合わせたから。そしてまた二十四時間テレビの終了の翌日を狙っていたから。


 実は、摂は熱狂的な二十四時間テレビのファンなの。


 始まりから終わりまで……その日ばかりは習い事もお休みにして、お父様とお母様と一緒に、つまり一家団欒で拝見している次第なわけなの。


 日々野ひびの家にとっては、お正月の行事よりもビッグイベントなのだ。



千佳ちか、行こうか」


 と、唐突に声を掛ける梨花りか。ここのところ、スッキリした感じにも見えるの。


 やっぱり梨花は『りか宿R』の執筆を楽しんでいるようだ。僕がプロデュースした作品を執筆してくれている。何よりも、それが一番うれしかった。


「……で、行先はスーパーにドラッグストアー?」


 そこで二人、ショッピングに勤しんでいる。梨花が品定めで、僕がカートを転がしている。つまり店内に於いての運搬役だ。でも何だかこの光景って、


「久しぶりだね、千佳とこうしてお買い物するの。それから、二人で歩くのも」


 と、梨花がしみじみと言うから、本当にしみじみとなった。その内容は、その『修学旅行のために行う模擬教習』で必要なものの準備。それこそが、このショッピングのテーマなのだ。梨花はまるで自分のことのように、品定めをしてくれている……


「あの、梨花……ありがと」


 と、そっと一言、添えるつもりだったけれど、実はね、


「あっ、そのことだけどね、僕も一緒に参加することになったから。摂に誘われて」


 ……って、言ったのだ。教習生・・・は、僕だけではなかったようなの。



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