第五四一回 喩えるなら、輝ける合体なの。


 ――それは君と僕が、四季折々の組曲を感じた日。



 一緒に君のお家、そして君のお部屋で、テキスト等を開いて勤しむお勉強。夏の風情を奏でる風鈴の音は、蛙の合唱の伴奏を担当し、オーケストラにまで及ぶ美しき調べ。


 それに夢中なのか、同じテーブルで黙々と……



 それでいて脳内では、「といや!」との掛け声を。必勝に日の丸を飾った鉢巻もペアーでテキストより繰り出される問題を、「といや!」と気合も充分に解いていくのだ。


 君と僕は向かい合わせ。合体したものは受験勉強と、そして二人分の……その、夏休みの宿題。考えることは同じで、お互い手伝ってもらおうと甘えていたの。


「ったく、呼吸ピッタリだな、千佳ちか


「ホント、呼吸ピッタリだよ、太郎たろう君。……梨花りかがね、サッサと夏休みの宿題を終わらせちゃったから、手伝ってもらえなくなったじゃない。去年は僕が手伝ってあげたのに、梨花の理科の宿題。僕は僕で、やっぱり数学が苦手なのに……社会もなの」


「へえ、梨花お姉、頑張ったんだな。俺たちも負けてられないな。俺は国語が苦手だ。社会は得意な方、数学は、可奈かなお姉には敵わないけど、俺でも少しは頼りになるだろ?」


 ……という具合なの。二人で一人。


 僕の苦手な教科は太郎君が得意で、太郎君が苦手な教科は僕が得意。二人なら全教科が得意になるの。夏休みの宿題で共同作業になるとは……もしかしたら来年も、五年後までも一緒にお勉強かな? 大学生になっても。……でも、太郎君は大学に行くのかな


「行けと言われた。おかんに。千佳は?」


「僕も同じ。パパに……皆に言われた。きっと梨花と同じ大学を志望すると思うの」


 そしてお昼に近づくと、気温は湿度も絡めて上昇する。蛙の合唱から蝉時雨と移り変わるのだ。昨日の夕方はね、虫の音が秋の調べを運んだように思えたけれど、ちょっと違ったみたい。冬にはまだ届かないけれど、春と夏と秋の気温が一日で移り変わるのだ。



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