第五四〇回 喩えるなら、女と男の約束だ。


 ――気温はまだ低いと思われるのか? 冷夏とも思われる白く広がる空模様。



 十三日を皮切りに三十度未満は続いている。昨日なんかは日没も速やかに行われていたけれど、それでも待ち合わせる。自転車の代わりに傘を持ち、黄色の傘。雨降り対策にバスを使用する。その道程を歩く中、緑あふれるバス停で太郎君と会った。



「あれ? 待ち合わせは現地じゃなかったの?」


「迎えに来たんだ。少しでも早く千佳ちかに会いたかったから」


 ボン!

 と効果音を立てながら、顔から火が出そうになった。


「ちょ、どさくさに紛れて……」


「それにしても千佳、送ってきた写メだけど、梨花りかお姉とお揃いなのはわかるけどさ……」


「ちょっと恥ずかしいなあ……やっぱ派手かな?」


 その写メは、海で撮った梨花とお揃いのビキニスタイル。マジマジと見る太郎君の表情に、顔から出る火も収拾がつかないほどに熱くなるのがわかる。頭からは白い湯気も。


「顔真っ赤だぞ千佳、来年はもっと慣れてくれよな、その……ビキニスタイルな」


「へっ?」


「ホント可愛いな。来年の海、楽しみだな。千佳と一緒に……」


 スマホの、写メの画面に穴が開きそうなほど、太郎君は見詰めるの。梨花も一緒に写っているけど、同じビキニスタイルで。ターゲットは僕。ロックオンされているの。


「じゃあ、ウォータースライダーも一緒。来年は海と一緒に、芝の政吉ワールドも追加するからね。もちろん太郎たろう君も一緒だから。女と男の約束。男と男の約束より重いから」


 と、指切り。


 クスクス笑う太郎君。僕の放った『女と男の約束』が笑いの引き金になったようだ。


 でも、嬉しすぎるの。来年の約束がいっぱい。何よりも可愛いと言ってくれたから。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る