第五三七回 遥かなる望郷、水平線の彼方まで。


 ――僕らは訪れた。潮騒のメモリー奏でるその場所へ。



 遠い日に見た記憶? それともあの日、芸術棟で見かけた絵の風景とよく似た場所?


 いいえ、どちらも正解と思えるの……


 遥かなる望郷、そこには水平線が無限に広がる。そんな場所……


 空気も澄んで、海水も澄んでいて、

 その時ばかりは雨雲も、その奥にあるスマイリーな青空に転じてくれた。



 燥ぐ海辺で、姉妹揃って家族も揃って、潮の満ち引きを目の当たりに好奇心を誘われるの。さざ波の不思議な動き。まるで幼子に戻るようなそんな感じ。一年前のできなかったお母さんと一緒の里帰りが、この日このような形で実現したから。……この度のサプライズを企てたパパに猛烈な感謝で満ち溢れた。それでもって梨花りかと二人でね、


 ――パパ大好き! 宣言を海辺に飾った。



 気温は涼しめ。三十度超えないまま……ちょっぴり冷たい海水だけれど、


 泳ぎたいと思うのが人情だよね? そう思えるから、水着に着替えていざ海へ。勢いのままに入水。だけれども準備体操が大事とパパは言うの……


 でも、パパの顔は赤くて。……思えば僕らの水着に原因があると思われる。何となくお約束のような展開だけれど、スクール水着でも競泳水着でもないの。ワンピース型ではなく御臍や御腹が見えちゃっているビキニスタイル。細々ながらも凹凸のわかる……そんな年頃になっていた。色彩は梨花とお揃い。「これ着るの?」と梨花に訪ねる程、僕から見れば派手な色彩で、それでも「大丈夫、きっと似合うから。素材は僕と同じだよ」と、鏡で顔も映されながら納得の一途で、その姿を今、パパの前で見せちゃったからなの……


 十五歳で初体験。ビキニスタイルと海。海を体感したのは生まれて初めてだから、梨花と僕も。その温度も西瓜のような香りも、独特な肌触りも、どれも新鮮なものだった。



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