第五三四回 ――八月八日。花火大会は恒例で。


 恒例のはずだった。


 ……でも去年から、流れは変わったの。



 小学生の頃よりも、まだ遠い日から見てきた天空に咲く、盛大なる花火。


 毎年八月八日のビッグイベント、天狗の花火大会。……思えば、お母さんと一緒に見た幼少期の頃が印象的。でも、一人ぼっちで泣いていた日だって綺麗な花火だったの……


 COV‐2の猛威は、今年もまた中止にさせたの。



 去年よりも、思えば厳しい明日へと直面させたから……オリンピックは、この日の二十時をもって閉会の儀に移る。それでも僕は、テキストと睨めっこ。夏休みの宿題を早く済ませたいから、梨花りかと一緒に。……梨花と一緒に、同じ机で夕映えから頑張っているの。


 梨花は、まだ……


 天狗の花火大会での、花火を見たことがないという……


 お勉強に打ち込んでいる傍ら、二年続けての花火大会の中止は残念で、だから躍起になる趣も否めなく……僕だけではなく梨花も。きっと梨花の方が、僕以上に残念がっているように思えてならない。「……見たかったな、花火」と、溜息込みの呟きも聞こえるの。


 ――そんな時だ。


 お母さんがお部屋を訪れた。それは梨花のお部屋。

 僕は梨花のお部屋で一緒に、お勉強というよりかは……夏休みの宿題がメインだった。


「花火、しよっ」


 と、お母さんは言ったの。それはそれは懐かしの、花火セット。多分、僕の瞳は少女漫画の登場人物のようにキラキラと輝いたのだと思う。そんな趣のままで、僕は梨花の手を引っ張る。「行こっ」って台詞も込みで。思えばね、お母さんと線香花火をするのは、あの遠い日以来。そして梨花と一緒に線香花火をするのは、初めてだったの。


 それは十五の夜……少しばかり広い庭で、姉妹と母が、初めて花火を一緒にしたの。



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