第五二四回 ともあれ、今日の帰り道は。


 ――太郎たろう君も一緒。


 私鉄沿線での僅かな旅路をともに。彼のお家にも僅かばかり寄るから。



 実は、梨花りかがそのようにしてくれたの。そしてまた、この度のウメチカ戦も半ばに差し掛かった。残すは二日……僕らはまた明日も、ウメチカ戦に馳せ参じる。


 どの様な形にせよ、今日は勝ち抜いた。


 ……ということになる。なら、この二人の帰り道は、作戦会議のため? ううん、きっと異なるもの。どちらかというなら、僕が太郎君と少しでも一緒にいたかったから。


 深い理由はない。梨花が思うほど、深い理由はないの……


 きっとそう。それに美千留みちるが「あなたは四連休ともウメチカ戦に来るんだよね?」と尋ねたから、僕は「……多分」と答えた。そして、彼女はどう言ったのか?


「来るよ、千佳ちかは。

 最後まで、決勝戦まで上り詰めるから」


 そう言ったの。……しっかりと僕を見る美千留の目は、僕にそれ以上のことを……それ以上の言葉がいらない程に、僕をその気にさせた。明日からの戦には、策や法などないのだ。今日でもそう、去年戦った相手でも、そのデーターは塗り替えられているから。


 この度の試合が、まさにその典型的な例だ。


 方法論など通用せず、勝利への一念の強さ。それに尽きると、そう思えたのだから、


「僕は、もう大丈夫……」


 と一言、太郎君の耳に入れることができた。それはまた、明日からも戦えるという意味を含んだ、二人だけの暗黙の了解。――だから、駆け抜ける四連休を精一杯に。


 今は、それでいい。


 それでいいの。この先には夏休みだけれども、そしてまた御連絡は既にあったの。ウメチカ戦が始まる少し前に。……修学旅行の御話。実施することを表明した、早坂先生の御言葉から。僕にとっては生まれて初めての修学旅行。世界観が舞い上がりそうだった。



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