第五二三回 負けるな、千佳!


 ――それは声援。その中にも、あなたの声も混ざりながらも。



 僕は、僕は……まだ僅かながらにHPヒットポイントが残っている。ある意味、奇跡にも近い状態だから。鎖での首吊りから、そのまま屋根から投げられて、地面に叩きつけられたのに……


 それは画面上のアバターだけれど、精神では一体感。


 首の骨は折れ、全身打撲の脚も、それに腕まで……有り得ない方向に曲がっている。しかし車夫しゃふさんも、野口のぐちとしさんも止めを刺しに訪れ、近づいてくる。


 なす術もなく、


 ――絶体絶命。



 もはやピンチという扱いでもなくなっていた。ピンチならまだ、チャンスはあるのだけれど、今回ばかりは、そんなシナリオのような……すると? するとだね!


 大いなる青い光? どちらかといえば緑色に光るアバターの全身。今の状況でも、何もしなくても苦痛で歪む全身だけれど、メキメキッと音を立てながら、変化を始める。


 それが……原型を留めない程の、

 獣のような身体に。そして吠える、雄叫びを! 僕のアバターは、獣化したのだ。


 その姿は狼のようにも、大蜥蜴おおとかげのようにも……合体したような感じの。元の面影などない野獣になったのだ。そして走る、四本足で。それはそれは僕自身もコントロールできない程の暴走。……いつかの僕のお部屋で、太郎君と一緒に見たあの映画のような感じにも似た独特な攻撃。車夫さんや野口俊さんのアバターを、鋭い爪で切り裂き、牙で噛みついて……な、何と食してしまったのだ。そして会場は沈黙し、静寂な末に……


 僕自身も震える。必死で動かしていると、こうなっちゃの。裏モードを発令したらしいの。僕のアバターには隠された秘密があるって……可奈かなが言っていたような?


「しっかりしろ、千佳ちか」と、太郎たろう君に言われる程、僕は茫然としていたの。何でか涙がボロボロと零れてきた。とにかく怖かったから。ヒシッと太郎君に身を寄せた。



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