第五二〇回 オリンピック開催の日、その朝に。


 一通のお知らせ。誰かの着信が響いた。



 その声が響く。これより二日目を迎えるウメチカ戦の最中に……そう、新たなる生命の鼓動が誕生した。今この時、瑞希みずき先生の声を拝借しながら告げられたの。


 令子れいこ先生の……

 第一子が誕生したことを。


 その御報おしらせは、瑞希先生を選んだ。これから親子対決が見られるという、丁度この絶妙なタイミングで。その御報せこそが、ある意味スタートの合図となった。


 爆走のカート。瑞希先生がライダーであることの照明。


 ならば、『蛙の子の親も蛙』という理屈も成り得るの。瑞希先生のお母さんもまた学校の先生……今はもう辞めているけれど、学園の教頭先生だった人だ。それに、その……ライダー説も浮上してくるの。先生になる前は、総長とまでいかないけど、レディースだったそうだ。……まさかとは思うけれど、そこまで瑞希先生とソックリな道程とは……


 瑞希先生のお母様のお名前は、北川きたがわ初子はつこという。


 瑞希先生は平田ひらただけど、旧姓は北川。……見た目で判断できない程に、蛙の子は蛙。まさにウメチカ戦だからこそ見られる夢の競演。この親子のレースなのだ。



 ……僕は思う。


 令子先生とティムさんの第一子である西原にしはられん君の誕生を祝す、大いなるイベントとなり得るのだ。そしてまた東の都で六十年の歳月の折に、オリンピックが開催されるというこの日が誕生の日という大いなる記念日。怜君が今世の人生を始めたのだ。


 きっと今はママの傍……


 パパも、この日を待ち侘びていたことだろう。


 きっと旧一もとかずおじちゃんも、記憶にはなくても永遠なる魂ならば、怜君という来世の姿に感無量のことだろう。そのことを噛みしめながら、瑞希先生の親子のレースが始まった。



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