第五一九回 大海の行方は、大会でのお楽しみ。


 ――喩えるなら、水平線の彼方に何があるのだろうか?


 今なら、見えるような気がするの。父も母も幾十年も求めてきたその問いに。



 それは、ウメチカ戦にあった……


 かつての『いじめられっ子』と『いじめっ子』が、この試合で戦うその姿に。正にそれは蘇生の儀……お互いの思想が通い合う心のキャッチボール。それが技と技とのコミュニケーションなの。戦いの後には、爽やかな笑顔で仲良くなっているの。


 そこは、いじめを超えた世界。


 もう一歩先にある世界だから、――命を、そして自分を大切にしてほしいの。



 ウメチカ戦の生みの親であるプロジェクト・ウメチカ……つまりはパパと、そして太郎たろう君のパパの願いでもあり、隠されたメッセージなの。ここでは皆が平等。学校での顔もお家での顔も、何の隔たりもなく素の自分が出せる場。それがある意味、水平線の彼方にある答え。七つの海は結ばれ、大陸が一つだった頃のように平和を求めているの。


 本当に寸前のところだった。


 的確な剣先、刺さる僅かな差……譲れない団栗の背比べ程のタイミングで、僕は美千留みちるに勝利したの。予想したとおりに第一回戦から、勝負の行く末がわからない程の苦戦を強いられていた。この時点で、どちらが勝ってもおかしくない試合の内容だった。


 それでも戦いが終われば、お友達は、もっとお友達になる。


「美千留、ホントすごかったよ。とてもとてもボコボコにするなんてものでは……」


千佳ちかも、やっぱあんたはこうでなくっちゃ。来年こそはボコボコにしてやれる楽しみが増えるってもんよ。……だから、ここから先、勝ち進まなきゃ承知しないから。それに来年も、太郎君と熱々のカップルを継続してなきゃ、ホント承知しないんだから」


 やっぱり悔しいのかな? そう言いながらも美千留の瞳には、涙が浮かんでいて、声も少し泣き声になっていたように思えた。……僕らのストーリは、まだ続くのだから。



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