第七十一章回 ――五〇〇回記念。

第五〇〇回 ここから、新世界へ。


 ――その日は七夕。令和三年の七月七日。昨夜の余韻を残しながらも迎える朝。



 眩い朝陽とは程遠く、朝まで待てなかった雨。白っぽいお空……近頃は、水蒸気のような雨が多いのだけれど、久しぶりに纏まった雨。


 通学路に見る車や自転車は、この朝まで待てなかった雨のように忙しなく、我先にと道を譲らず……青信号で歩いている僕らの前を、寸前のところで通り過ぎたの。


 そんなことが多いこの頃の登校……


 僕らは益々の注意を。これからも三人一緒の登校を、暗黙の了解で心に決めた。



 そんな中で浮かぶの、

 ――新世界への誘い。ウメチカが新世界へ繋がる日。


 まるで織姫が彦星に出会うような、そのような心境。……迎えに来てくれたの。昨夜は太郎たろう君が。切れた鼻緒も何のそので、帰り道は僕をお姫様抱っこ。ふわりと軽々。


「いいなあ、千佳ちか……」

 と、羨む可奈かなのお声。一文橋いちもんばしさんもビックリの様子で帰路を歩む。そして梨花りかは……そこにはいなかった。別のルートを歩んでいたの、とある面々と御一緒に。と、そんなわけで芸術部の面々が、そこに集ったからだったの。お休みと思われていた怜央れお君に、そして公太こうた君。……何だか、僕の知らないところでも、お話は進展しているようで、そこにも見えない絆が構築されているような感じ。一見接点のないように見える怜央君と太郎君の関係と、さらに怜央君と公太君の関係……目の当たりにしたような、そんな感覚だ。


 僕が見たのは、芸術棟の屋上から昇降口を下りた時。そこに怜央君と公太君が、何やらお話を……いやいや、何やら励ましているような光景、怜央君が公太君を。その姿に、満面な笑顔を見せた太郎君。……「怜央、後輩の悩みはしっかり聞いてあげるんだぞ」と声を掛ける場面まで。そこに、僕の知らない世界観が動いているようだ。


 そのことが、後のお話にも影響を与えることを、予感させながらも。



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