第四九九回 キラキラなお星様。


 ――それは甘い調べ。天空に輝くお星様の魅惑に誘惑。星野ほしのたちは此処に集いし。



 そこは芸術棟……

 なのだけれど、見たことのない光景で、お空が少し近くなった場所。


「ここって……いつも閉まってるよね?」


「まあ何でか鍵を持ってるの。職員室に行けば置いてあるのよ」


 僕の問いに胸を張り、腰に手を当て仁王立ちな可奈かな梨花りか葉月はづきちゃんも見守る中、僕らが初対面となる可奈の……天文部の高等部の大先輩。中等部の僕らから見たら、高等部の先輩は大人の世界。なら、可奈はもう、大人の一員となるね。


一文橋いちもんばし隼人はやと。高等部一年三組。私を天文部に導いた部長さん」


 可奈は紹介した。可奈の傍らにいる背の高いスマートな男子。とはいっても、それなりにガッチリしていて、可奈をお姫様抱っこするには充分な体格と思える……思っても、間違っても言葉にしてはいけない。思っただけでも、赤面に値する恥ずかしさだから。


藤岡ふじおか、職員室から勝手に鍵を持ってきたらダメだろ?」


 とは言いつつも、一文橋さんは笑みを浮かべていた。怒ったわけではないらしい。ところが可奈は可奈で「今日は特別。彦星が織姫と会えるまたとない機会だから。私に免じてねっ」と愛嬌を振りまく始末で、……どうやら常習犯のようだ。


 芸術棟の三階よりも上の世界。雲の上とまではいかないけど、天空と繋がる場所。近くて遠いこの場所に、可奈は僕らを招待してくれた。ナチュラルなプラネタリウム。溌剌と可奈の声が響くの。いつものお昼休み……朗読する葉月ちゃんのポエム。


 少しお姉様な声。その声を用いて梨花に、そっと一言……


「百合の関係ではなくなるけど、親友……ましてや私たちは姉妹。恋人には別れはあるけど、私たちは未来永劫。……見て、このお星様のような関係だからなの」


 キラキラ瞳。梨花は「うん……」と頷いた。


 初めての、芸術棟の屋上での一コマをキラキラと飾ったの。

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