第四九五回 二人の時間。
――走るお車の中。お家へと繋がる景色、夕映えのお空。
ティムさんが運転して僕は助手席に。……静かに話すの、お話するの。
僕に何があったのか? ティムさんの知りたいことはね、きっとそれだから。僕は学園を飛び出したこと。それは
「――そう、梨花に言われたのか?」
と、ミュージック一つない静寂の中、ティムさんが僕に訊く。……ハッとなった。涙のその奥にある瞳が開くような、そんな感じを覚えた。少しばかり身の震えもあって、
「……なかった。一言も、そんなこと」
と、言葉が漏れた。脳内だけでは抑えられない思いは、その言葉となった。
「じゃあ、大丈夫だ。
お家に着いたなら、きっと
とのティムさんの、その落ち着いた言葉……
グッと胸を押さえる。そんな感じの言葉……
その瞬間から、景色が変わって見えたの。透き通る夕映え。曇りがスーッと消えてゆくような感覚。そのような趣なものを。じわっと、涙が溢れそうになったのも。
――僕は、梨花のことよく知っていると思っていた。
それでも、見えなくなっていた。大切なこと。思い上がっていたの。知り尽くしていると、僕の中で勝手に……上手く言えないけれど、空気は自分が創り上げたものだった。
お家に着くと、パチーン! と、こだまする音。とっても痛かった。
「どんだけ心配したと思ってるの?」
と、梨花が涙で顔をクシャクシャにしながら、僕を思い切り叩いた。
「ごめんなさい……」と、僕は何らかの栓が外れたように大泣きした。
……ギュッと、僕を抱きしめる梨花。とても、とっても温かかった。
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