第四九四回 空白の時間。


 ……それは白く広がる世界。その向こう側には、きっと現実の世界。



 デジャヴという言葉が相応しいのかもしれない。畳の間。卓袱台も、一度見た光景そのもので、僕は……どうしたのだろう? 痛みはある。頭が少し……何故か、お布団に寝ているの。すると、お傍には男の人がいる。その人まで同じなの。


「気が付いたようだね」


 と、その言葉も……片言ではなく日本語らしくなっていたの。若干はあの頃とは違うけれど、シチュエーションは同じと言っていい。そこにいる男性。その人は……


「ティムさん」


千佳ちか、まだ起きない方がいい。帰りは僕が送ってあげるから。……それから制服と下着は濡れてたから、今洗濯してるし。風邪ひいちゃいけないと思って、先に言っとくけど」


 ……そうなの。


 お布団の中で、僕は裸になっていた。



 でも、ティムさんと、初めて会った時もそうだった。その頃よりかは、僕は……少し角が取れていると思うの。あの頃のような警戒心もなく、僕は丸くなれたのだろうか?


 だから……


「ティムさんは、どうして此処に?」


「今日で仕事納めなんだ。荷物の整理とか色々あって、そのため車だったから、千佳をお家まで送るのにちょうど良かった。……話したいことはあると思うけど、それは……」



 ――千佳が話したくなったらでいいから。


 察してくれていた。


 事情はお互い色々と、あると思われるけれど、それはもう少し……頭の痛みが治まってからになりそうで、或いは帰りのお車の中ということになるのかも……



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