第六十九章 トロピカルな調べと、まっしぐらなハート。

第四八二回 それが、夏の風物詩。


 ――今はまだ初夏。梅雨明け宣告もまだの、まだこれから始まろうとしている夏。



 とくに中等部三年生の夏は、熱気で溢れると思われる。思春期真っ盛りな中での、志望校への道。僕と梨花りか、そして可奈かなは高等部へと進学するのだけれど……クラスの多分、七割の生徒は僕らと同じ進学を望むけど、残りの二割の生徒は学園以外の志望校を望む。


 そこにもある其々の道。

 ……多からず少なからず、人生を考える時期の、またその一歩。


 涙が零れる程の人生の思考は、もっと深く年を重ねてからと思われるけど、僕らの年齢で起こる出来事はきっと、今生の脳内の奥深くに、また残ると思われるの。


 もうすぐ齢十五となる。


 この七月が訪れたのなら……目覚める今日は、まだ六月十八日。もうこのままお休みに入りたいのだけれど、まだ金曜日。学園へと登校する平日なのだ。



 しかしながら今は、

 この寝落ちした気持ち良さに浸りたいの。


 それでも、ちゃんと今度は……下着も、パジャマとなる、黄色のトラさんマークの大き目なTシャツを着ている。パタリとお布団の上。きっと大き目の枕を抱えている。その枕は多分……太郎たろう君。僕にとっては夢現な……夢といえば夢、現実といえば現実で、


 太郎君の息遣いが聞こえる。

 息遣いは重なる。僕のと重なるの。唇の感触……確かに、僕の記憶に残っているの。


 僕の全部、見られた時の火照りも、高鳴る鼓動も心地よくて、露出する肌の感触も。去年の夏に、太郎君の学校で太郎君の教室で、誰もいない二人きりで、結ばれた日……


 僕とは違う体温や肌の感触、風の心地よさも……「ンンッ」と漏れる声も甘く、ぼんやりと、でも目覚めるの。戻る現実、何だか汗ばむ素肌……少しばかり恥ずかしく。


 それでも照らす朝の訪れ。脱いだ衣服、浴室へ向かおうとする全裸の僕を……



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