第四八〇回 初夏のダーリング!


 ――確かに、電車に乗って二駅ほど。そして歩いてきた風景は初夏の彩りだったの。



 周りを見ても夏の装い。店員たちもクールビズに徹している。……ただ、マスクだけは別物。季節とは関係のない異質なもの。あと一週間ほどで緊急事態宣言が解除される。延長に次ぐ延長で、まずは節目が見えてきたということなのだろうか? しかしながら我が町わが地域はね、蔓延防止と名を変えるのみ。まだまだ続くの。


 そんな中でも、友と会うこと喜ぶことは、いつの時代も人情。


 人情があるから、人間ドラマは成り立つ。……漫画から学んだ学園ドラマは、もう人情こそが主体。いかにドライなキャラでもね、人一倍人間味が溢れている。僕は、そんな世界に憧れて、日々エッセイを綴っているの。そこでハッと思う。



 ――僕が、梨花りかのエッセイを好きになった理由。


 梨花のおかげで、作家への道程を歩んでいるの。或いはそれが、僕の裸の思い。……だからなのかな? 太郎たろう君にありのままの僕を見てもらおうと、粋な演出を飾ったのね。


 それでもって、丁度その時だ。


「ちょっとせつ、私を差し置いて、梨花と二人で何を?」――と、可奈かなの甲高き声がこのスペース。周りに人がいるにも拘らず、この店内、淳一堂にこだました。


 だから皆注目。視線が集まる。しかしながら、


「あっ可奈、お買い物?」


 と、揺るぎのないプリンセスの風格。マイペースを崩さない強靭に。目が泳ぐ梨花とは対照的だけれど、それでも黙ってないのが可奈。暫くぶりのマシンガントーク炸裂で、


「あっ可奈じゃないわよ。抜け駆けなしって言ったわよね? それに梨花も梨花で私のこと避けてるの? 前はちょっとしたことでも私に相談してたくせに、今は摂と二人でコソコソと……白状してもらうわよ。私に何を隠してるのかをね?」


 と、対峙する可奈。その相手は梨花よりも、摂に重点を置いているようだ。



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