第四七八回 レッツゴーお外へ!


 ――歩く。昨日と同じく二人で。……でも、少し距離を置いちゃうの。



千佳ちか、あれは不可抗力なんだ」


「……わかってる。太郎たろう君には何度も見られてるから」


「まだ怒ってるのか?」


「ううん、怒ってない。……あっ、でも、ソフトクリーム奢ってくれるなら」


 って、そんなつもりはなかったのだけれど、寝起きで、はだかんぼになっちゃっているところを見られちゃって、一緒にお風呂に入った時よりも、とっても恥ずかしくて……恥ずかしかったから、照れ隠しにもならないけれど、太郎君は笑顔で奢ってくれたの。


「はい、千佳お嬢様」


「じゃあ、太郎王子」……その交わす言葉で思うことは、何故か織姫おりひめ彦星ひこぼし。来月にはもう七夕だ。それは僕と梨花りかの誕生日を意味する。去年より僕らの七夕は七月六日。とあるアニメのエンディングが、そう飾っていたから。やっぱり太郎君と一緒がいいの。


 ギュッと握る手。愛おしい人と手を繋ぐなら、


「おっ、ご機嫌になったようだね、千佳お嬢様」


「えへへ……」


 そして向かうの。今日のメインともいえる僕らの行く先。……ちゃんと宛はあったのだよ。昨日のお隣の町は、少しばかり偵察だったの。その目的は太郎君にあったの。



 ――参考書。そして添削問題や問題集に至る。


「それならせつと一緒に行けば? 僕なんかより、摂の方が真面目に勉強してるし」と言ったものだから、僕が相当怒っていると思っていたらしい。だって仕方ないの。脳裏に残る今朝の恥ずかしかった余韻……どんな顔していいかわからなかったから。


 だからこそ今は、その恥ずかしさも心地よく手を繋いでいるの。足並み揃えて、入るデパートの『松坂の殿堂』……土日も開店するようになったの、昨日から。



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