第四七七回 夏の扉と渚のバルコニー。


 ――明るい陽射し。バルコニーへの入口、無色透明な扉から照らしているの。



 一旦は夜明けを迎えたのだけれど、そのまま寝落ちして……


 目覚めたら、僕はそのバルコニーへと引き寄せられるの。まるで大いなる力。超電磁が働いているかのように。勿論ここは僕のお部屋。でも、いつもと何か違うような?



 そう思いつつも、開ける無色透明な扉。――それは『夏の扉』


 そう題したとしても、それ以外の何ものでもなくて、僕は見ることとなるの。広大なる海を。水平線の彼方に何があるのかを、ロマン誘う調べ。駆け出し飛び込むの。


 この渚のバルコニーから海へ。


 水着は持ってないけれど、裸のまま……魚のように泳ぐの。確か泳ぎが上手なのは梨花の方で、僕は覚えたてのはずだったけれど、信じられないほどスイスイと……


 ヒンヤリとして気持ちよくて、

 遠くから、君の声が聞こえてくるの。「千佳ちか」と、僕の名を呼ぶ君の声……


 太郎たろう君も、僕と一緒に泳ぐ? 思えば二人で海へ行ったことなかったね。でも、今年も無理なのかな? 新型ウイルスの上に変異株や変異種まで重なって、越前の海は無理だけれども、せめてプールでも……露天風呂は難しくも、ええっと、混浴なら……


 丁度その時だ。何だか第三の目を開いたような感覚で……見える白い世界へ。或いは光の中で、僕の名を呼ぶ太郎君の顔が間近にあったの。それはそうと、何で太郎君がここにいるの? と思いながらも、いやいや、それ以前に何か……肌触りの感じが変。


「あっ、千佳、今間違っても起き上がるなよ」と、太郎君が言うから、起き上がってみると、ハラリと滑り落ちる掛布団。えっ、ええっ? さっきの夢じゃなかったの? と、思うほどに僕の……素肌が、下着も着けてなくて、全部見えちゃって……


 ササッと隠す、掛布団で。すると太郎君は、赤い顔をしながらも「……千佳、誤解しないと思うけどな、お前そのまま寝落ちしてただろ? シャワー浴びたあと……」



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