第六十八章 やはり節目は、六月二十日。

第四七五回 その日までは、まだ……


 ――緊急事態宣言。その後は蔓延防止となるが、一足先に町は彩っていた。



 例えば駅付近の公園……土日の開店を再開したデパートや、公共施設も歩道に至るまでも、自粛から醒めたような人の集い。マスクの着用も様々なスタイルで、黒も白も、基本的な着用も、ヒョッコリと鼻出しも、顎にかけている場合も、気温や湿度の関係もあって息苦しくも、ソーシャルディスタンスを見極めながら、僕もまた例外ではなかった。



 見える光景の中にも……

 温かな昼下がり。歩調を合わせるように、今は君と歩くの。



 ――久しぶりだね。と、そう思いながら。


 僕のお隣には太郎たろう君が、僕と歩調を合わして歩いているの。差し出す手を、そう繋いでくれた。しっかりと手を繋いで。とても懐かしい心地よさ……その思いが溢れる心。


 心は胸にある。と、思われがちだけれど、実は脳内にある。


 胸には心臓がある。同じ心でも心の臓器。車のエンジンと同じように鼓動を繰り返しているの。……ただ違いは、止まらないこと。命ある限り動き続けているの。そして今は高鳴る鼓動。少し赤みのある頬は、今が一番に生きている感じ。マックスなほどなの。


 向かう先はね、


 一応は千里せんりの町の、お隣の町。……かつては高の市と呼ばれていた場所。都構想の実現により、数多くの市が合併し、この千里の町も例外ではなく、茨の市、摂の市、吹の田などの三つの市が複雑に合併した結果なのだ。大いなる町という括りだ。


 そのため、車作しゃさくという地名から、車夫しゃふという地名も誕生した。それはそれは神足こうたりの町に新たにできた場所なの。余談ではあるけれど、車夫杜生もりおさんの名字はね、そこから由来されたものらしい……と、作家の野口のぐちとしさんは、とある作品で語っている。


 ただ、今の僕は何処でも良いの。太郎君と一緒なら。太郎君に進路を預けているから。



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