第四六八回 山脈は続く、どこまでもなの。


 ――広大な世界観。眼鏡の奥の、葉月はづきちゃんの瞳の奥。澄んで、その奥行きまでも。



 まっすぐに、そして今も尚、裸のままで僕を見る、その鋭い視線……


 そう。他の誰でもない固有名詞の星野ほしの千佳ちかを。つまりはこの僕を……



「僕は今、何も着飾らないで、描きたい絵を描いてます。そして今、大好きな千佳先輩を見てます。……もっと自由に、活動しても。芸術部を辞めたとしても」


 見抜かれている。……というよりも、僕の気付かない僕の脳内にあることを、見据えている。まだ十三歳の女の子……その裸体も十三歳の女の子のものだ。それでも、見据えている。葉月ちゃんは十四歳の僕の脳内をも見据えていて、ずっと大人のように思える。


 僕の返せない言葉たちをも、想定していたかのように、


「千佳先輩がやりたいことができるのなら、それでもいいじゃないですか。芸術部だけがすべてではないのですから。それでも僕は応援しますよ、千佳先輩のこと」


 と、言い切ったのだ。しかも、満面な笑顔で。


「……ありがと。

 僕は結局、葉月ちゃんに、先輩らしいこと何もできなかったね」


「ううん、そんなことない。

 千佳先輩は僕にとって、本当に勇気となった存在なのです。エッセイで描かれてる生き様そのものが。僕は、あなたの後輩でいられたことが誇りなの。だからこれからも、幅広く活躍してほしいの。千のストーリーズを書き上げてください。応援してますから」



 僕は今まで『千のストーリー』と記していたけれど、正しくは葉月ちゃんの言う通りの『千のストーリーズ』……それはそれとして、込み上げる思い。しっかりと、葉月ちゃんを抱き寄せた。――その時、感じる葉月ちゃんの息遣いや体温とともに、見えるイメージと感動の瞬間。僕のやりたいことのイメージが、脳内で拡大していくの。



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