第四二〇回 集える芸術棟。それは静寂の彼方に。
――そう、静まり返る時。永遠の一秒ともいえる長さを、その五感は覚える。
そうした中でも、僕らがこの階段を一段一段……心臓の鼓動も聞こえるほどに、奏でる音。緊張の響きを奏でながら、止まることのない時間を刻む。変な感じの汗を背筋に感じながら、足も留めず上る階段……僕の前には
――芸術棟の三階。その小部屋のドアを、一呼吸してからのオープン!
籠るブルーの光が、白い世界へと解放された。まるで……まるで天国の扉を開けたような感覚。今、間違いなく僕らは、その場にいて、そこに立っている。地を踏んでいる。
僕らには、エンジェルリングは輝いても、天使の羽は広がらない。
二本の脚でしっかりと、踏ん張っていて、地に足を着けているの。
崩れない土台が大切で、震えても心は折れないようにと。目を凝らして見る。
立っている人影……
白い光の中で、白い世界の中を。逆光という名のもと、負けずに見極めるの。
決して幻ではなく男子生徒の姿。……いや、制服からしても間違いないのだ。そして跪くの……可奈が。蒼白な顔をしながら。大きなショックを受けているのは、僕から見ても明らか。梨花も、可奈の様子に動揺している。……その男子生徒は、僕らよりも一足先に此処に来ていた。逃げも隠れもせずに……
「な、何で? 君だったの……ううん、何かの間違いよね? うん、きっとそう。さっきまで此処で授業してたのよね。今から此処を出るつもりだったのね、……
俯く可奈。その声も震えていて、少々涙交じりにも思えた。
「違うよ、可奈姉。……しっかりしなよ、あの時の電話みたいにさ。俺は可奈姉の……その女のくせに恋人気取りな奴が許せなかったんだ。そいつはな、男もいながら二股掛けてる変態女……って、ええっ? な、何で二人もいるんだよ?」
その「公ちゃん」と呼ばれる男子生徒は……
明らかに僕らを……僕と梨花を見て驚いていた。思わぬ出来事へと発展してしまった。
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